在郷野草たちとの相互活性化
里地の風景づくりは “里の霊山” とおぼしきその参道沿いへの地被植栽からスタートしました。雑草抑制効果を期待してのヒメイワダレソウ植栽でしたが、耕作放棄地に囲まれて雑草の侵入・発生が旺盛で、期待は揺らぎつつありました。そんな時、救世主のごとくに現れたのがオヘビイチゴです。オヘビイチゴはヒメイワダレソウを脅かす雑草でしたが、一転して有望な在郷の雑草抑制材に躍り出ました。
耕作放棄地においては、外来雑草が繁茂するなかにもノギク、カキドオシやヘビイチゴなどの在郷野草(在郷の在来野草)がたくましく息づいており、高刈り等により保護すると、在郷野草たちは見る見るうちに陣地を広げ、こちらにエールを送り返してくれます。
この風景づくりは “人と自然との相互活性化” を発現することにより農山村の持続可能性へつなげようとするものですが、まずは在郷野草たちとの相互活性化を実感することができました。
田舎のショーウィンドウの効果
農民たちが築き維持してきた土手は、重機により整形された斜面とは異なり、手づくりの造成作品を感じさせます。里地内道路沿いの土手を “田舎のショーウィンドウ” と見立て、在郷野草による季節の彩りを添えました。
このショーウィンドウを最もよく覗き込んでおられるのは、腰が曲って杖を突いてやって来られる老女です。高齢者や年少者は目の位置すなわち視点が概して低く、足元はごく目先です。腰が曲がればなおさらです。少子高齢化社会において足元の景色は大切な観点であると考えます。土手は面を立ち上げ、見やすい対象になってくれます。
土に生きる人々の手による土手、それと同じ土に根を下ろし命をつないできた在郷野草たち、それらがやさしい手を差し伸べるかのように少子高齢化社会に応える・・・そんな情景を見る思いの老女の観賞姿です。
現れつつある “緑の薄衣” の世界
里地の風景づくりにおける主要な目標は、雑草抑制により、土地の人々が拓き築き維持してきた手づくりのぬくもりのある造成地形を浮かび上がらせることです。地形が “緑の薄衣(うすぎぬ)” をまとったイメージです。
今のところ雑草の繁茂スピードに追い付いていけない状況ですが、一時的・部分的には目標のイメージを現わしてくれるようになりました。「まるで公園のようだね」と共感の声をいただきました。公園のような風景のなかに住まうことが、手数さえあればこの農山村においても実現可能である、そんな光景が見えてきました。
見えてきた持続可能性への道筋
風景づくりの作業をしていると、通りがかった郷土の皆さんから色々と声を掛けていただきます。現場に身を置いての作業である風景づくりは、会話や交流を生み、それ自体が地域活性化の第一歩です。常連の老ウォーカーから「おかげで寿命が延びそうだよ」とはずんだ声をいただきました。
生活環境の改善、健康づくりへの寄与に関してはその効果が見えてきました。農山村における持続可能性へ向けた道筋に乗ることができたように実感しています。
2019年台風19号豪雨では各地に甚大な被害をもたらしましたが、その時、ここ一帯の耕作放棄地は畦の高さまでいっぱいに降雨を溜め込み、遊水地としての機能を果たしました。