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(1)地被 ヒメイワダレソウ -効果的・省力的維持管理をめざして

ヒメイワダレソウとは

インターネットで「地被植物」を検索するとヒメイワダレソウの紹介が多く出てきます。ヒメイワダレソウは匍匐茎(ほふくけい、地表付近をはって伸びるツル状の茎)が密に地面を覆い、アレロパシー(*)も有し、雑草抑制効果があるとされます。白くて小さい花を一面星状に付け、花期も5~8月と長期間です。

ただし生態系被害防止外来種であり「利用上の留意事項:生物多様性の保全上重要な地域の特に海浜や河原等に侵入するおそれのある場所には持ち込まない」に配慮する必要があります。

対象地は里地の道路沿いであり導入に問題はないと判断し、先ずはヒメイワダレソウを試行することにしました。

*アレロパシー(他感作用):一つに植物が放出する化学物質が他の植物の育成を阻害する作用。

 

【区間1】里の霊山の参道

里地内道路が “里の霊山” とおぼしき山に向かって伸び、その参道として位置づけられる区間です。ほとんどの区間が小規模の盛土構造で、隣接地は農地(耕作放棄地)です。

[着手前の状況]

一部に盛土の崩落が見られました。植生は事業によるものと思われるシバが部分的に生育していますが、ほとんどは雑草に覆われていました(ヨモギ、スギナ、カタバミ、ヒメジョオン、メヒシバ類等)。

[ 準 備 ]

▶ ヒメイワダレソウは苗(生長した株を掘り起こしたもの)を購入し、耕作放棄地の一角を苗床として植付け、育成しています。  ▶ ヒメイワダレソウは匍匐茎の節から根を出しては伸長していきます。匍匐茎が伸長すると、根が出ている部分を含めて採取し、植付けに供します。

[ 施 工 ]

▶ 先ずは植付け予定区間の除草を主に抜き取りにより行いました。 ▶ 盛土の崩落部分は周辺から土をかき集め補充しました。 ▶ 植付けは、苗床において伸長した匍匐茎を採取し、施工場所に植付けました(植穴間隔約30cm、1植穴当たり2本程度)。 ▶ 植付けは毎年一定区間行い、活着・生長の不良箇所への補充も加え、現在4~2年目です。

   ヒメイワダレソウ植栽は道路側方片側です。粗い施工で、耕作放棄
   地に隣接していることもあり雑草の侵入・発生が旺盛です。草払機
  を使った雑草の「高刈り」により省力化を図っていますが、抜き取
  りの手間を省くことはできません。それでも雑草状態の反対側と比
  べれば整然さは明瞭であり、道路も風景に馴染んできました。
  “風景の余情は土地利用の余白にあり”です。

  

【区間2】道路側方の未利用地(民有地)

区間1から1キロメートル程離れた同じ里地内道路沿いの土地(民有地)です。

[ 着手前の状況 ]

かつては野菜作りを行っていたそうですが、近年は未利用で防草シートが敷設された状態でした。

[ 施 工 ]

▶ 先ずは防草シート周辺に生えていた雑草を、抜き取りや掘り起こし根こそぎで除草しました。 ▶ 植付けはヒメイワダレソウのポット苗を購入して行いました(植穴間隔約30cm、1植穴に半ポット、2列)。現在3年目です。

  ほぼ平坦地で、民家の庭に隣接し、その背後には山があって冬季の
  寒風を遮り、土壌が湿潤であるなど好条件の土地です。加えてポッ
  ト苗を植付けたこともあり生育状況は良好で、2年目の夏には地被
  状態になりました。さらに年間1メートル程のスピードで陣地を広
  げています。

  

[ 生育状況・管理・施工へのフィードバック ]

▶ ヒメイワダレソウは植付け後活着するまで(およそ2週間程度)は水遣りの必要があります。ヒメイワダレソウの植付け適期は初夏から初秋の頃までですが、近年の夏の猛暑を受け、梅雨時に集中して植付けるようにしています。  ▶ ヒメイワダレソウの生育状況は土壌、施工の良否、生育環境等に左右されますが、良好な場合(区間2)は植付け翌年の夏には繁茂状態となります。  ▶ 植付け直後、周縁部、生育不良等により被覆度が低い段階・箇所は雑草が旺盛に発生してきます。  ▶ 被覆度が高まった段階でもスギナ、カタバミ、メヒシバなどの雑草が発生してきます。このうちスギナ、カタバミは多年生であり、施工の段階で取り残した根から萌芽してきたものと思われます。除草作業を軽減するために、事前に除草剤(多年生雑草の駆除に有効な吸収移行性除草剤等)による駆除を行うべきであったと考えています。  ▶ 区間1においては施工が粗雑だったことや耕作放棄地に隣接していることなどから、雑草の侵入・発生が旺盛です。ヒメジョオンなどにロゼットを形成されるとヒメイワダレソウは入っていけません。またオヘビイチゴやカタバミなど群生するものはヒメイワダレソウを押し退けて陣地を広げていきます。 ▶ ヒメイワダレソウは冬季には冬枯れ状態となり、茶色く変色あるいは枯死した茎だけの状態となり、新たな芽生えはほぼ5月に入ってからです。冬季には主に越年生雑草が、さらに春になると新たに一年生雑草が加わり成長してきますので、冬枯れ状態の時にも早めの除草を心掛けています。  ▶ ヒメイワダレソウが繁茂して茎がいっせいに上方に伸びだした際には「刈込み」を行い、被覆度向上を促します。  ▶ 自動車が進入すると押しつぶされますが、ほとんど枯死には至っていません。 ▶ ヒメイワダレソウは花期が長く(5~8月)、また花にはミツバチ等がよく集まってきます。これらの特徴は道行く人々だけでなく、除草作業をする者にとっても労を癒すなごみになります。

  

【地被状態の効果的・省力的維持管理方法】

ヒメイワダレソウによる地被状態を維持し、長期にわたり雑草抑制効果を発揮させるためには、発生・侵入してくる雑草の駆除が必要であり、その効果的・省力的な方法を模索しています。

① 雑草の開花・出穂時刈り取り

私がとっている方法は “雑草の開花・出穂時刈り取り” です。

開花・出穂をタイミングとする刈り取りは、種子散布による繁殖を阻止するとともに、多年生雑草のように地中の根茎などが養分を貯蔵し繁殖するものは、養分を消費させること等により弱体化を図るものです。

② “高刈り”

その省力的方法として「エンジン駆動式草払機」や「片手用刈込みバサミ」を使った “高刈り” を行っています。ここで言う高刈りとは、ヒメイワダレソウの上方に伸び出てくる雑草をヒメイワダレソウの生長高(地面上10cm程度)で刈り取るものです。

  

▶ 刈り取る雑草の量が多い時は「草払機」を使っています。

  

▶ 刈り取る雑草の量が少ない時は「片手用刈込みバサミ」を使っています。

片手用刈込みバサミを使った省力的草刈り

刈り取った雑草はヒメイワダレソウの生育の支障とならないように、かき出します。

― 根  拠

[ 1 年生・越年生雑草] これらは種子で繁殖することから、その抑制は種子散布を阻止することにつきます。

[多年生雑草] 種子繁殖に加え、地中の根茎などが養分を貯蔵し繁殖機能を有します。したがって抜き取りや土を掘り起こしての根こそぎ除草は、雑草の根を除去しきれず、取り残した根からの萌芽・再生を許すことになります。

開花・出穂時をタイミングとする刈り取りは、種子散布の阻止に加え、開花・出穂までに光合成により葉に貯蔵していた養分が根茎などに運ばれるのを阻止し、さらに再生のために根茎などに貯蔵していた養分を消費させ、弱体化を図るものです。

厳密には結実までに刈り取ればよいわけですが、結実は見た目に分かりにくいこと、またイネ科雑草などは花自体も分かり難いことから、確実性と余裕とをもって開花・出穂時にしています。

  

― 補  足

・多年生雑草に対しては、その駆除に有効な「吸収移行性除草剤等」をヒメイワダレソウ植付け前に散布し処理すべきであったと考えています。さらに良策なのは、雑草の根や種子の混入していない土(深部の土など)を客土し植付け基盤とすることです。

・ヒメイワダレソウは冬季に冬枯れ状態となり、この時期に越年生雑草の発生が見られます。これらは量が少ないこともあり「片手用刈込みバサミ」を使って根元切除を行っています。

・ヒメイワダレソウが繁茂して茎がいっせいに上方に伸びだした際には、「刈込み」を行い被覆度向上を促します。

  

― 現時点における ―

ヒメイワダレソウの地被としての期待度

●生態系被害防止外来種であり、地被形成後においても雑草の侵入・発生があり、抜き取り除草を要することから、積極的には導入しがたい素材です。

●ただし、生長が速く早期に緑地を形成し、それなりの雑草抑制効果があり、花期が長いことなどから、道路側方緑地における選択肢としては残しておきたいと思います。

●事前の雑草対策、丁寧な施工、管理段階においては侵入・発生雑草の種子繁殖を抑制するための草払機を使った高刈り等を行うことにより、除草作業の省力化および地被状態の長期化につなげることができると思います。

  

【ヒメイワダレソウのその他の可能性】

●ミツバチが集まる蜜源植物であり、花粉媒介により周辺の農作物や植生に好影響を与える可能性があります。

●管理の手があり、在郷野草が侵入してくる環境では、ヒメイワダレソウを先行的地被材とし、その後は在郷野草の侵入を選択的に許容し、それらが混生し、長期間にわたって色とりどりの花を楽しめ、ミツバチ等も集まる、そうした多彩な緑地を創出することも活用法の一つと思われます。「道路沿いの土手」において実践しています。

4-1-3. 道路沿いの土手 - “田舎のショーウィンドウ” に見立て多彩な植生法面を創出

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