歴史と祈りの風景づくりの一環としてのヤブカンゾウ植栽
「3-3. 霊山を仰ぐ供養碑 -歴史と祈りの風景づくり」で述べましたように集落内の畑の一角に馬の供養碑「馬頭観世音碑」があり、その周辺にはヤブカンゾウ群落が見られます。この一帯はかつては牧場であり、ヤブカンゾウは牧草として植えられた可能性があります。
そこで “歴史と祈りの風景づくり” として、「馬頭観世音碑」の脇を通る道路沿いを対象としてヤブカンゾウの増殖を行いました。献花のイメージでもあります。
ヤブカンゾウについて
ヤブカンゾウは史前帰化植物とされ、よく目に付く橙色の花を付けます(花期7月~ほぼ梅雨明けまで)。株元からしなやかな狭長の葉を束状に広げて群生し、根も絡み合い、地被状態を形成して雑草の侵入を抑えているように見えます。
道路をはさみ、盛土法面側にある既存群落から株を掘り分け、雑草状態の切土法面側に移植しました。
[着手前の状況]
盛土法面は高さ2メートル以上あり、ヤブカンゾウとササ類とが隣接して群落を形成しています。その内外にイタドリ、ヨウシュヤマゴボウ、ススキなどが入り込み、夏季にはヤブカンゾウの上方を覆う状況でした。対する切土法面は高さ0.6メートル程度で、雑草が繁茂していました(ヨモギ、スギナ、ヒメジョオン、メヒシバ類、カヤツリグサ類等)。両側は主に耕作放棄地です。
[ 施 工 ]
▶ 移植は10~11月に実施しました。 ▶ 移植に際し、採取した株は施工しやすいように葉のしな垂れた部分をカットし、また根周りの土はほぐさないように留意しました。 ▶ 植付けを行う切土法面は、草払機による草刈りを行い、間隔30~40 cmで植穴を掘り、1穴当たり2~3株程度で植付けを行いました。
[ 生育状況・管理 ]
▶ ほぼ全ての株が活着し、順調に生長しています。 ▶ 移植後9ヶ月経た翌年7月に、半数以上の株が花茎を伸ばし花を付けました。 ▶ ヤブカンゾウは花の頃から盛夏にかけて葉が衰弱したように色落ちし、しな垂れます。花後に、雑草とともに草払機による一掃の刈り取りを行いました。夏季のヤブカンゾウの刈り取りは、その後の生長にはあまり影響しないようで、この方法は除草の省力化につながります。 ▶ 盛土法面側は既存のヤブカンゾウ群落の拡大をめざし、多年生のイタドリ、ヨウシュヤマゴボウ、ススキ等に対しては吸収移行性除草剤の散布による駆除、草払機による高刈り等を行っています。
既存のヤブカンゾウ群落(盛土法面)
盛土法面の既存のヤブカンゾウ群落。混在していた大型雑草を駆除
すると勢いを増してきました。密生した部分では雑草を抑制してお
り、また小型の雑草などは発生しても見え難く、それほど気になり
ません。
移植先(切土法面)
写真下の石碑が「馬頭観世音碑」です。その脇を通る道路沿い(切
土法面)にヤブカンゾウを移植し増殖をめざしています。移植翌年
には半数以上の株が花を付けてくれました。感動です!
在郷野草+観賞性のある花と葉+食材+雑草抑制機能、この花は先
賢からの大いなる贈り物です。
― 現時点における ―
ヤブカンゾウの地被としての期待度
●史前帰化の在郷素材であり、群落において雑草抑制効果が見られ、八重の橙色の花を付け、葉も成長過程ではさわやか・やわらかで観賞性があり、地被材への応用として大いに期待されます。
●薄層の地被をなすヒメイワダレソウやポテンティラ・べルナでは伸び出てくる雑草が目に付きやすいのに対し、ヤブカンゾウは葉がしなりながらも高さ50cmくらいまで立ち上がり群生することから、小型の雑草は発生しても見え難くそれほど気になりません。そのことも管理の省力化につながります。
●若葉や蕾は食用、蕾や根は薬用になるとのことで、食でも楽しませてくれます。