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5-1. 川をめぐる状況と郷土の里川

郷土の里川 -かつての姿-

私が子供の時、郷土の川で体長15㎝位のハヤを釣った時の興奮は、今でも鮮明です。その頃の里川は岸が崖状に切り立ち、河岸林に包まれ、大人の世界から隔離した秘密の隠れ家のような存在でもありました。川はふるさとの象徴的存在です。

川づくりの基本は環境を尊重すること

1980年代、私が社会人になって河川の仕事に就いた頃、生物や風景に配慮した川づくりは既に始まっていました。川に引きつけられた人たちが、川の魅力を引き出そう、取り戻そうと熱意をもって取り組んでいました。河川には河川法という法がかかっていますが、1997年に改正され、それまでの “治水” “利水” の機能に加え新たに “環境” という機能が位置付けられました。

現在、川づくりは「多自然川づくり」といって、水の自然な流れにより瀬や淵が現れ、多様な命が育まれる川本来の環境を尊重するのが基本です。

設計を担う者にとってはなかなか難しい命題なのですが、川に慣れ親しんだ人にとってはごくあたりまえの話です。そして、このあたりまえの状態において川は大きな力を発揮するのです。

川によって育まれる命の連鎖

水辺の植物や、それを食する底生動物、それを食する魚、さらにそれを食する鳥はもちろん、川に遊び、川面に心を洗い、川水を引いて育てた米を食する私たち人もまた川に育まれる命の一つだと思います。

河川法に環境機能が取り入れられたのも、広く川の働きによるもの、川に育まれた人たちが自らの必要性・健全性のために突き動かされて成し得たことのように思えるのです。

郷土の里川 -変容の姿-

そうした時代の流れの一方で、画一的なコンクリート護岸に改修される河川も多く、郷土の里川もその一つでした。河川改修に合わせて河岸の道路も整備され、治水と道路事情は改善されました。一方、河岸林は全て伐採され、陽光が差し込むようになり、川原は雑草状態に、川水は生活雑排水の流入もありアオコが発生する状況となりました。

この変化を最も喜んでいるのはサギかもしれません。飛翔を遮るものもなく、丸々と太ったサギが飛来しては獲物を狙っています。魚たちにすれば踏んだり蹴ったり、その目は一年中涙に違いありません。

しかも魚たちにさらに追い打ちをかけたことがあります。何らかの工事により河床がまっ平らに削り取られてしまったのです。延長80メートル程の区間ですが、魚たちの生存の拠り所である淵や植物は一掃され、当然のことながら魚影は皆無になってしまいました。子供たちにとっても悲劇、魚のいない川に何の魅力がありましょう。いったいどうしたことか? 

私の里川への取り組みは、川と言うよりも排水路、ほとんどゼロからのスタートとなりました。

  

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