Skip to content

1. 農山村の風景 その風景づくり とは -持続可能性へのアプローチ

(1)郷土の農山村の風景

郷土は特に秀でた棚田や屋敷林といった景勝があるわけではなく、いたって普通の農山村です。

多様な地形と里地・里川・里山

農山村は低平地、そこを縫って流れる川、周囲を取り囲む山々で構成されています。低平地に家を築いて田畑を拓き、川の水を引いて稲を育て、山は燃料や資材等の供給地として活用してきました。それぞれ里地・里川・里山といい、人と自然との相互作用の世界であり、半自然的な環境を形成しています。私が子供の時見た郷土も同様でした。

里地の地形は手づくりの造成作品

里地は土地の人々が拓き、築き、維持してきた造成地形です。人力や家畜による造成ゆえに、元々の地形の改変が少なく、むしろそれを生かし、曲線や斜面が多く、柔らかでぬくもりがあります。棚田を構成する土手などは農民芸術を感じさせるものがあります。耕作放棄地が増え雑草に覆われた今でも、草刈りさえすれば緑の薄衣(うすぎぬ)をまとったように潤い豊かに浮き立ちます。

命の連鎖を育む里川

河岸の樹木を映し流れる清涼感、魚を釣った時の興奮は今でも鮮明です。川には川によって育まれる命の連鎖があります。銀鱗に心躍り、川面に心を洗い、川水を引いて育てた米を食する私たち人もまた川に育まれる命の一つだと思います。郷土の里川は今では河岸林のほとんどが伐採され、画一的なコンクリート護岸の水路となり、最も変貌した風景要素です。洪水から命・財産を守る治水機能は向上したものの、命を育む環境機能の低下は大いに危惧されます。

多様な機能で農山村を支える里山

里山は里を抱き、その暮らしを包んでいます。落葉広葉樹の山林は春の白い芽吹き-新緑-深緑-朽葉-冬の裸木へと装いを変えていきます。林内は明るく、花もあり、振り返れば里は箱庭のよう。里の日常に接しながら、非日常の景色が広がります。また特有の生物多様性を育み、季節を告げる野鳥のさえずりがこだまします。かつては切り出しては薪炭等として農山村の営みを支えてきましたが、今は多くがその役を終え、放置竹林や常緑広葉樹などに陣地を押されつつあります。

神社や祠は心の拠り所・風景の核心

地形の特異点や里の要所には、その場を占めるように神社や祠(ほこら)などがあります。里人の心の拠り所として里とともに在り、祈りが捧げられてきました。聖域の森や山などを含め原風景の核心的な存在です。

 

今、郷土は人口減少、少子高齢化、農業離れ・土地離れ等により農林業が衰退し、それに伴い耕作放棄地が増大し、雑草が繁茂し、里川はコンクリート護岸化や水質汚濁があり、里山は竹藪や常緑樹に押され、帰化植物や害獣などの外来生物の侵入も多く見られるなど、風景にもかつての輝きはありません。

  

(2)農山村の風景とその風景づくり

象徴性と可能性とを蔵した農山村の風景

起伏に富んだ列島、顕著な四季、温暖多雨でしばしば牙をむく気象、そこに多様な植物・動物が息づき、山・川・平地で構成される小さな土地に、器用で辛抱強さを培われた人々が土地の自然を巧みに利用して生活・生産を営み、特有の文化や生物多様性を育んできました。

そうした要素を全て蔵して眼前にたちあらわれているのが農山村の風景です。日本らしさが象徴的に表れており、そこに暮らしてきた人々にとっての “原風景” であり、まるでDNAに沁み込んでいるかのようです。

特に秀でた景勝や絶景はなくとも、農山村の風景には大きな可能性を感じます。

農山村は人と自然との相互作用の世界とも言われますが、今は人手が減り、また老い、自然が自らの歩みを進め、一部は野生化して人を圧迫している状況です。雑草や藪(やぶ)に覆われ、また重機が入り、表面的・部分的な変容はありますが、原風景の骨格である地形や資源はおおよそ現存あるいは潜在しています。

風景づくりを通じた人と自然との相互活性化

これまでの農山村は主に農林業を通じて自然の営みに働きかけ、その生長・恵みをいただき、多くの人口を支えてきました。時代を超えた持続性からして “人と自然との相互活性化” と言ってよいと思います。

この風景づくりは土地に潜在する原風景を浮かび上がらせつつ、同時に自然の命輝く風景の創出に取り組み、その反作用として様々な活性化を生み、農山村の持続可能性へアプローチしようとするものです。

すなわち “風景づくりを通じた人と自然との相互活性化” です。

作業の手の減少・高齢化という現状を踏まえ、省力的・効率的・効果的な手法を模索しつつの取り組みです。

(3)効能や期待

地域課題の解消

風景には地域の実情・課題がありありと映し出されます。風景を見るという総合的で客観的な目と、風景づくりという現場に据えた目は、地域の課題を的確に捉え、その解消が自ずと目標になります。例えば農山村の課題として農業従事者の減少・高齢化による耕作放棄地の拡大があります。風景づくりの主要な対象であり、雑草や藪(やぶ)の減退をめざし、耕作地としての維持や生活環境の保全につなげます。

ふるさとづくり・ふるさとリピーターづくり

命あるものを育てると、また命を育む環境づくりに携わると、育てた命は自分の分身となって風景に刻まれます。同時に自身の心中にも生き続け、そこを離れても消えることはなく、機会があればまた戻って手を添えたくなります。ふるさと意識の醸成です。風景づくりは “ふるさとづくり” であり “ふるさとリピーターづくり” です。

波及的ストーリー

風景がよくなっていけば住み心地もよくなり、足は屋外へ向かい、健康増進、コミュニケーションの活性化につながります。よい風景と風景づくりは様々な活動を発生させ、また誘引します。上記 “ふるさとリピーター” もその一つです。都市からの参加を含めた広域的な取り組みとすることにより、都市との交流や循環、定住や移住につながることが期待されます。

  


Widgets

Scroll to top