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5-2. 里川の風景づくり -コンクリート河川の環境の改善

この里川は集落内を蛇行して流れています。かつては河岸に樹林が茂り、河床には瀬や淵があり、自然豊かな里川でした。その後に改修工事が行われて河岸林は伐採され、代わって画一的なコンクリート護岸が築かれ、さらに最近になって河床の掘削工事が行われました。

令和元年の台風19号豪雨においても氾濫することはなく、改修による「治水」機能は相当程度発揮されています。

かつては水田への取水が行われていましたが、昨今「利水」は行われていません。

取組みの要旨

風景づくりにおける取組みは、極度に低下した環境機能の向上をめざし、かつての川の要素を復元すること、また集落内を流れる里川として風景を保全・改善することです。

現在の川づくりの基本は「多自然川づくり」と言って、水の自然な流れにより瀬や淵が現れ、多様な命が育まれる川本来の環境を尊重するものです。

したがって、河床については自然の流れに委ね、瀬や淵を始めとして多様な流水環境が現れるのを見守るのが基本です。手を加えることとしては、現状があまりにも開放的であることから、魚の隠れ場所を作るなどの補助的なものになります。

集落内を流れる里川であることから、川原が雑草で鬱陶しくならないように大型雑草や外来雑草は駆除します。

河畔については、かつての河岸林の代役として、沿川民有地内の樹木の保全・増殖を行います。

里川の環境づくりは子供たちを育む環境づくり

私が子供の時に体験した魚との接触・感動が、今こうして里川への取組みにつながっています。里川の風景・環境づくりは、象徴的存在としての魚の豊かな川づくりをめざすものであり、それは子供たちを育む環境づくりであると言ってよいと思います。

  

郷土の里川の現況(断面図)-河床掘削区間

郷土の里川の現況

  

  魚は自然な川の流れ、瀬や淵などの多様な流れがあるなかで命をつ
   ないできました。成長の段階、生活の場面、その他様々な状況に応
  じて多様な流れを巧みに利用して生きています。水深が浅く一様で
  は、魚の棲める状況ではありません。隠れる場所もなく、この区間
  に入り込めばたちまちサギの餌食です。掘削工事以後、しばらくの
  間、魚影はほとんどありませんでした。

  

環境改善のイメージ(断面図)

  

  魚を含む動物にとって、川原の草むらは隠れ家や餌を提供してくれ
  ることから、除草は外来種や大型の雑草のみで、草丈の低い草はそ
  のまま生かします。
  魚の隠れ家=竹束ブロック=は次図を参照。
  生活雑排水の流入の抑制は、地域住民の皆さんと一丸となった取組
  みであり、今は未着手です。

  

【日陰を必要とする生物】 「森下郁子・森下雅子・森下依理子、川のHの条件 陸水生態学からの提言、山海堂」によると、

“魚は一日中光のあたっている場所が嫌いである。水生昆虫などは生活史のある時期から光のあたっているところでないと生息しなくなるが(光のあたっている場所では石や落葉の陰を好む)、小さい幼生のうちは光のない間隙に潜り込んでいる。”

水生昆虫のカゲロウ、カワゲラ、トビケラなどは魚の主要な餌です。

  左から順にカゲロウ(幼虫)、カワゲラ(陸生の成虫)、トビケラ
   (幼虫、砂などで作った筒状の巣の中で暮らすタイプ)のイメージ
  写真。

  

[ 実 践 ]

[ 1年目 ]

▶ 河床掘削平坦化の後に迎えた夏、河床にはアメリカセンダングサが大発生し、その抜き取り除去に追われました。里地と同様に、里川においても植生が一掃されたあとに先駆的に優占状態を獲得するのは繁殖力旺盛な外来種のようです。河床地盤は粘性土で、抜き取りを行うと根周りの土も一緒に付いてくることから、跡に穴ができ、青灰色のヘドロが露出し、悪臭も発します。川はまさに家庭雑排水の排水路と化していました。

▶ 水質汚濁に加え、河床平坦化により流水も薄層化して浅く広くなりますので、陽光による温度上昇も影響していると思われますが、アオコが川面を埋め尽くす勢いです。

▶ 降雨時の増水により少しずつ淵が形成され、魚影(ハヤ)も確認されるようになりました。そこで淵が魚にとってのよりよい棲み処となるように、下図のような魚の隠れ家=竹束ブロック=を作成し、淵に投入しました。竹束ブロックは乾燥させた枝付きの竹を、建築用の空洞ブロックにさし込んで流されないようにしたものです。効果は、元々魚影の見られた深めの淵では有効で、より多くの集まりが見られます。元々魚影の見られない浅い淵では効果はないようです。

  ここで見られるハヤはカワムツと思われます。ウグイやオイカワも
  ハヤと呼ばれ、前者は下流において放流がなされ、後者はかつて生
  息していましたが、今ここでは両者とも確認することができません。
  写真は左からカワムツ、ウグイ、オイカワのイメージ写真。

魚の隠れ家 =竹束ブロック=

   竹は近くに生育しているホテイチクを使いました。ホテイチクは中
    形の竹で、稈(かん、幹に相当する部分)の下方の節間が詰まり膨
  らむのが特徴で、乾燥させると丈夫で折れにくく、釣り竿や杖(つ
    え)などとして使われる素材です。
   この竹を伐採し、枝付きのまま落葉し青みがなくなるまで乾燥させ
  ます。それを建築用の空洞ブロックの穴にさし込みますが、その際
  に最下部の枝も折れないように閉じて穴をくぐらせ、通過したら元
  の状態に開いて抜けないようにします。
   翌令和元年の台風19号豪雨においても流されませんでした。

[ 2年目 ]

▶ 春にオオカワヂシャが繁茂してきました。オオカワヂシャは全体に柔らかなイメージで清々しい青紫色の花を付け好印象でしたが、調べてみると特定外来生物と分かり早速除去に取り掛かりました。支川最上流部の里川にまで特定外来生物の植物が侵入してきているとは、全くの驚きです。オオカワヂシャは根の張りは弱いものの、水流のせいか茎が根元付近で曲っているものが多く、抜き取る際に途切れ安く、するとまたすぐに成長してきてしまいます。丁寧に抜き取る必要があります。

法律による規制・防除の対象である特定外来生物
オオカワヂシャのイメージ写真。

▶ 前年に大発生したアメリカセンダングサは除去の甲斐があり、かなり少なくなりましたが、抜き取り除去は続けています。

▶ 河床掘削平坦化を行わなかった上流の川原には、生態系被害防止外来種ウチワゼニクサが繁茂しています。里川もまた外来種の天下です。

▶ そうしたなかにも在来種のミゾソバが発生し、夏には川原の低い部分をほぼ覆う状態となりました。ミゾソバは茎の下部が地を這って節から根を張り、群生すると雑草抑制効果が見受けられます。水際にまで張り出すことから魚の隠れ家になることも期待し、生かしています。

▶ 川原の高い部分の一角には外来種ヨウシュハッカが群落を形成し始めました。ヨウシュハッカは高さ80㎝位で特に鬱陶しさはなく、群落には雑草抑制効果が見受けられることから生かしています。

▶ ガマ、史前帰化植物ジュズダマなどの大型の草本も発生してきました。

▶ 秋には台風19号と21号発生時の2度の豪雨に伴う出水があり、りっぱな淵と瀬、転石の覆う川原が形成されました。

  【河床掘削後4年目】橋下に落差工(らくさこう、コンクリート製
   の段差)があり、その直下に淵、その下流に平瀬、早瀬が続きます。
  普段の水量は少なく、主に小魚たちが群泳しています。
  ミゾソバが川原を覆い、水面にまで張り出してきており、魚たちに
  とってサギからの隠れ家になっているようです。
   川として多様な環境とは言えませんが、ミゾソバには雑草抑制効果
  が見られ、集落内の里川の風景管理の面でも大いに助けてもらって
  います。

[ 3年目 ]

▶ 淵にも瀬にも幼魚が無数、我が子を見るようで感激しきりです。

▶ 水中に生態系被害防止外来種コカナダモが繁殖してきました。今は部分的な繁殖であり、魚の隠れ家として、また水質浄化機能を期待してそのまま様子見にしています。

▶ 水際ではツルヨシが水面に向かって伸びつつあります。

▶ ジュズダマの増殖が著しく、鬱陶しくなってきたことから刈り取りを行っています。

▶ 前年に大発生したオオカワヂシャは除去の甲斐があり、かなり少なくなりましたが、抜き取り除去は続けています。

▶ かつての河岸林の復元の第一歩として、河畔の耕作放棄地内にネムノキを1株植えさせて頂きました。耕作放棄地の北端で、川側にのみ影を落とす位置です。河川護岸に近いことから、国交省「河川区域内における樹木の伐採・植樹基準について」に基づき必要距離(ネムノキが成長した際の根系の大きさ:垂直1.0m、水平1.7~2.2m)が確保されるようにしています。

▶ 秋にはカワセミが頻繁に飛来、またカルガモが水面に伸びた草を盛んに食む様子が見られました。

  【河床掘削後4年目】橋下に淵があり、比較的体長の大きな成魚も
  見られるようになりました。
  外来種ヨウシュハッカが川原を覆いつつありますが、腰の高さ程の
  群落で鬱陶しさはなく、雑草を抑制しており生かしています。葉を
  ちぎれば一服の清涼感も味わえ、川の作業の労を癒してくれます。
  ガマ(〇内)は大きく立ち上がりますが、在来の水辺の植物であり、
  今のところ小群落でもあり残しています。

[ 4年目 ]

▶ 比較的大きなハヤ類の成魚が見られるようになりました。

▶ 河畔の耕作放棄地内にネムノキを1株追加しました。

  河床掘削区間より上流側。前方のカエデと梅林(民有地)は希少な
  河畔林として機能しており、枝垂れの下にある淵には魚たちが最も
  多く集まります。
  そのためサギ類も頻繁に飛来し、またカルガモが草を食む姿もよく
    見かけます。コンクリート護岸に付いた白い汚れはカワセミの排泄
    跡で、採餌場としてお墨付きを頂いたようです。
  左から順にアオサギ、カルガモ、カワセミのイメージ写真。
  河畔林の延伸をめざして植樹したネムノキ(写真左)。耕作放棄地
  の北端で、かつ成長した際に根が河川護岸に及ばない距離を確保し
  ています。
  ネムノキは里地に自然発生し てきます。写真右はネムノキの事例。
  多くの魚たちが集まる淵を覆い、河畔林として機能している梅林。
  人は言います“梅切らぬバカ”と、一方魚たちは訴えます“この梅
  切るバカ”と。淵を覆う枝垂れは軽い剪定のみに限定し生かしてい
  ます。 

  

カワムツを始めハヤと呼ばれる魚がよく見られる場所は淵、石の陰、草の茂み、植物の垂れ下がったところなどです。かつて見られたオイカワもハヤと呼ばれる一種ですが、こちらは浅く開けた場所に多く見られます。

  

[ 考 察 ]

取組みは3年余りですが、その間の川の再生力には目を見張るものがありました。画一的なコンクリート護岸と河床掘削により排水路と化したかのような川でしたが、3年目に現れたあふれんばかりの幼魚の群れは “川は生きている” と明確に示してくれました。

これだけの再生力を見せた要因として考えられるのは、大きな出水と、それに伴う砂礫の流下です。令和元年水害では周辺各地に甚大な被害をもたらしましたが、この川のこの地区では氾濫することなく、淵と瀬の形成をもたらしてくれました。魚にとって、また魚が餌とする底生動物にとっても、河床の砂礫は上流から流下しては古いものと入れ替わり、新鮮な状態を保つことが必要とされます。源流域の状態によっては砂礫の流下が阻害される場合もありますが、この川ではそうした弊害はなく、川としての本領を破棄できる健全性を一定程度は有していたということが言えそうです。

  

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