郷土の里地を囲む山々は、比高100メートル前後で山というよりも丘陵です。その多くはコナラなどからなる落葉広葉樹林に覆われ、一部にカシ類からなる常緑広葉樹林が、またパッチワーク状にスギ・ヒノキの植林が見られます。
落葉広葉樹林(里山林・雑木林)
落葉広葉樹林は薪炭等の産出という人々の活動のもとに維持されてきた山林であり、一般に里山林あるいは雑木林と呼ばれます。主な構成樹種はコナラ、クヌギ、ヤマザクラ、イヌシデ、イヌブナなどです。
春の白い芽吹き→新緑→深緑→朽葉→冬の裸木と移ろいゆく景色が農山村の四季を彩ります。
落葉広葉樹林は薪炭等産出のための20年前後の間隔での伐採と、伐採した切株からの萌芽→生長を繰り返すことにより維持される植物群落で、自然植生とは異なる人為の植生です。燃料供給等としての役を終えた今は人手が入ることも少なく、このまま放置されると、自然のなりゆきとして、この地域の自然植生である常緑広葉樹のカシ類にとって代られることになります(下記[植物群落の遷移・極相・自然植生]参照)。
里山の四季は人為のものであり、ここに暮らしてきた人々の営みの遺産です。
里山の春は、白く萌え上がる落葉広葉樹林の芽吹きに始まり、里は 本格的な春の到来に満たされます。里山の風景としての魅力のピー クを感じます。
常緑広葉樹林(自然植生)
カシ類からなる常緑広葉樹林はこの地域の自然植生であり、民家や墓地の裏山の急傾斜地などに見られます。主な構成樹種はアラカシ、ヤブツバキ、シロダモなどです。こんもりとした濃緑を一年中装っています。
郷土のカシ類の多くはアラカシであり、主に急傾斜地に見られます。
急傾斜で薪炭林としての利用が困難であったこと、またアラカシは
シラカシに比し急傾斜で土壌が浅い厳しい環境下でも生育できるよ
うですので、それらの要因が重なっての現状と思われます。
針葉樹
点在して針葉樹のモミが見られます。モミは氷期と間氷期の寒暖と植生のせめぎ合いを生き延びてきた木だそうです。落葉・常緑の広葉樹林が広がる中で、針葉樹のモミは異色の雰囲気を漂わせています。
竹 林
放置竹林は各地で問題となっています。放置竹林は、根系が浅いために地すべり抑止力の低下、生物多様性の低下、害獣の棲み処となることなどが危惧されており、里山荒廃の象徴とされます。
タケ類のなかでも特にモウソウチクは成長が早く、高さ20m以上になります。日光を好む落葉広葉樹にとっての脅威であり、生長を阻まれ衰退を余儀なくされます。郷土においても管理放棄状態のモウソウチク林の拡大が見られ、里山の落葉広葉樹林を駆逐しつつあります。
モウソウチク等のタケ類は生態系被害防止外来種であり「利用上の留意事項:既にある竹林については、放棄することなく適切に利用、管理されることが望ましい」とされています。
管理放棄状態のモウソウチク林が、里山の山麓から山上に向けて 落葉広葉樹林を駆逐しつつ陣地を広げています。頂上の濃緑は針 葉樹のモミです。
林縁の植物群落
山麓の林縁(りんえん、林の周縁部)はツル植物や低木類が藪(やぶ)を形成しているところが多く、里地の外縁にあたる部分でもあり、極めて鬱陶しい状況です(下記[林縁の植物群落]参照)。
ツル植物はクズ、カナムグラ、センニンソウなど、低木類はヌルデ、アカメガシワ、ウツギなどが見られます。
道路を挟んで形成されている林縁の植物群落。山側に低木類のアカ メガシワ、反対側にツル植物のクズ、カナムグラなどが見られます。
風景づくりおける植生のつかみどころ
【植物群落の遷移・極相・自然植生】
畑の耕作を止めると、関東地方においては、
→ まず畑地雑草のメヒシバ(一年生)などが繁茂し、
→ 翌年には路傍雑草のヒメムカシヨモギ、ヒメジョオン、オオアレチノギク(一・二年生)などが優先し、
→ 4-5年後にはススキ、チガヤ、トダシバ(多年生)などのイネ科草原となり、
→ その後はキブシ、ヌルデ、クズなど(林縁特有の低木・ツル植物群落)が被い、
→ さらにクヌギ-コナラ林が広がり、
→ 80-100年後には内陸においてはカシ類の常緑広葉樹林(極相)となるそうです。
このような変化を植物群落の「遷移」、遷移の最終相を「極相」と呼び、極相は環境が変わらないかぎり安定して存続するのだそうです。
極相はその土地固有の「自然植生」であり、常緑広葉樹林を極相とする地域は、関東地方から日本列島西南域にかけて分布します。葉の表面に光沢のある樹種が主体であることから「照葉樹林」と、また代表種を冠して「ヤブツバキクラス」とも呼ぶそうです。
現実には常緑広葉樹林域の多くが人間活動による影響を受けており、畑地や路傍の雑草群落、ススキ等の草原、里山のクヌギ-コナラ林などは自然植生が置き換えられた姿だそうです。
参考「宮脇昭、植物と人間、日本放送出版協会」
【林縁の植物群落】
自然林が開放的な裸地や植生地と接する際には、両者の間に、両者いずれの植物とも違った林縁特有の植物群落=林縁植物群落=を形成します。林縁植物群落は森林側の低木とツル植物からなる群落(マント群落)と、開放地側の草本植物からなる群落(ソデ群落)とで構成されます。
自然の秩序による植物群落の配列であり、植物が群落内および群落間において競争しながらも動的に均衡な共存状態にあるのだそうです。
一方、人為が加えられた里山のクヌギ-コナラ林や植林においては、林縁植物群落の構成種である低木やツル植物が林内にも見られます。これは林内に陽光がさし込むことによりますが、また、人為により自然の秩序が乱され、不均衡となり、植物群落の配列が崩れた姿とも言えるのだそうです。
林縁植物群落(特にマント群落)は見た目に鬱陶しい存在ですが、自然林にとっては林内に風や光が入るのを防いでくれる存在であり、厳しい環境にある自然林や社寺林などの林縁においては駆除しない方がよいとのことです。
参考(下図を含む)「宮脇昭、植物と人間、日本放送出版協会」