この山は “里の霊山” と想定し、風景の核心、風景づくりの基点とした山です。集落、幹線道路、里地内道路のいずれからもよく眺望されます。
山林は落葉広葉樹林主体ですが、西側山麓には竹林が、南側山麓には常緑広葉樹林が繁茂し、これらは落葉広葉樹林内に侵入し徐々に駆逐しつつあります。竹林はモウソウチク主体で、管理粗放状態です。山麓の林縁(りんえん、林の周縁部)には林縁植物とササ類が藪(やぶ)を形成しています。
周囲からの眺望のほぼ中心に祠(ほこら)がありますが、ほとんど藪に覆われてしまっています。
落葉広葉樹林の彩りを映す風景づくり
- 田舎のパブリックビューイングとしての見立て -
山林は “里の霊山” として、この地の自然植生である常緑広葉樹林に戻すという選択肢もありますが、山容が集落等からよく眺望され、また祠は林縁の藪にうずもれた状態であることから、祠のある山腹を “田舎のパブリックビューイング” と見立て、落葉広葉樹林の彩り(春の白い芽吹き-新緑-深緑-紅葉-冬の裸木)を映し、さらに花や紅葉により多彩に演出することにしました。
3-2. 霊山麓の祠 -周辺の整備・山の神とのコラボレーションと一体的な取り組みです。
幹線道路から見た対象の里山(里の霊山)。 〇:“田舎のパブリックビューイング” と見立てた範囲で、 祠は〇内下方にあります。 太→:幹線道路からの視線、細→:里地内道路からの視線。
*パブリックビューイング:屋外の大型スクリーンで観覧等を行うこと。
▶ 先ずは放置竹林の伐採です。動物の活動が収まり、用材としても良質となる秋~冬の時期に行いました。 “タケは高さ 1 メートル程のところで伐採すると、残された稈(かん、幹に相当する部分)が水分・養分を吸い上げ切口から放出することから、地下茎をも衰弱させることができる” という指摘があることから、この方法を試行してみました。伐採後に稈の切口を見ると、液を放出しているもの、いないものの双方がありました。初夏になり、タケノコの発生は少ないように感じられますが、一方で生長初期から枝葉を付けた小竹の発生が見られます。
▶ モウソウチクなどに比し概して稈が細いタケ類・ササ類は、高さ1メートル切りを行っても残った部分の節から新たに枝を発生させ生長を続けることから、駆除にはつながりません。これらは山中のものは根元での伐採、山麓のものは除草剤による駆除を行っています。除草剤は吸収移行性除草剤を使用し、1度散布した後、しばらくすると部分枯れの状態となりますので、残った緑葉の部分に再度散布を行い、それを繰り返すことでほぼ駆除することができました。
▶ 続いて常緑樹のカシ類を伐採しました。
▶ 落葉広葉樹はサクラ類、クヌギ、イヌシデ、イヌブナ、ヤマボウシなどが生育しています。タケ類・カシ類に取り囲まれたものは陽光を奪われ、まるでモヤシ状態です。周囲を伐採すると徐々に元気を取り戻してきます。
▶ 「3-2. 霊山麓の祠 -周辺の整備」に記しましたが、祠周辺には花木のヤマブキ、ミヤギノハギ、ツツジ類、サクラ類、紅葉木のメグスリノキ、ナナカマドなどを植えました。
伐採前(20年程前)。伐採直前は用材小屋の前まで竹林・ササ類 が繁茂。
竹林・カシ類の伐採直後。タケ類は高さ1メートル切り、モヤシ状 態の落葉広葉樹が点在。
伐採後3年目。
竹林の伐採は早々に多くの住民の皆さんから共感を頂きました。落葉広葉樹林とともに暮らし育まれた感性と、パブリックビューイングの相乗効果があるでしょうか。
モヤシ状態であった落葉広葉樹も元気を取り戻しつつあります。
伐採したタケは、用材小屋の修景や杭などとして活用しています。